【江上 隆夫】本当のビジョンの描き方

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『THE VISION あの企業が世界で急成長を遂げる理由』著者江上隆夫さんとは?

【江上隆夫さんプロフィール】

ブランド・コンサルタント/クリエイティブ・ディレクター
株式会社ディープビジョン研究所 代表取締役
有限会社ココカラ 代表取締役

長崎県五島列島の大自然の中で伸び伸びと育つも、父親の事業失敗により愛知県へ転居する。
大学卒業後、プロミュージシャンを目指したが挫折。しかし、それが幸いしてコピーライターに。その後20年近く大手広告代理店でコピーライター及びクリエイティブ・ディレクターとして、さまざまな業種の広告とブランド構築にかかわり、コンセプト力を磨く。

2005年独立後はブランド・コンサルタント、クリエイティブ・ディレクターとして、数億から50億、100億単位の広告制作やブランド運営にかかわっている。最近では、誰もがイノベーションを起こせるようにするスキルの開発や、地方自治体イベント・自治体首長のマニュフェストづくりに参加するなど活動の幅を広げている。

主な受賞歴に朝日広告賞、日経広告賞グランプリ・優秀賞、日経金融広告賞最高賞、日本雑誌広告賞、東京コピーライターズクラブ新人賞などがある。

【ホームページ】 https://deepvisionlab.jp
【著書】THE VISION あの企業が世界で成長を遂げる理由


小林 : 著者対談を始めます。小林正弥です。今日は、『THE VISION あの企業が世界で急成長を遂げる理由』という書籍を出された江上隆夫先生にお越しいただきました。

江上 : よろしくお願いします。

小林 : この音声は、主に個人や企業の経営者の方で、より自己実現したい方やビジネスを成長させたいという方がお聞きになっていますので、そういった方々にビジョンという切り口で、ぜひいろいろ教えていただきたいと思います。まず江上さんの自己紹介を、簡単にお願いします。

江上 : 江上隆夫といいます。株式会社ディープヴィジョン研究所と、有限会社ココカラと、二つの代表をしています。職業名としては、ブランド戦略コンサルタントとクリエイティブディレクターと名乗っています。

大学卒業後に、いくつかの広告制作会社を経て、30歳前後から、大手第3位の広告代理店、アサツーディ・ケイというところで、ずっとコピーライターとクリエイティブディレクターの仕事をしていました。大手企業さんの企業ブランドをつくったり、商品のキャンペーンをやったりということを20年近くやって、独立しました。独立後も前の広告代理店と組んで、今もやっていますが、広告を作ったりブランドを作ったりというのが多いです。

5年ほど前に、『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』という、実はコンセプトの作り方をかなり詳細に紐解いた本を出しまして、それが幸いちょっとしたベストセラーになって、そこから作家活動も始めて、これがやっと3冊目という形になります。

自分の特性として、クリエイティブに関すること、あるいはブランドに関することは相当プロフェッショナルかなと思いますので、そういうご相談はよく会社さんとか個人の方からも受けます。今、パーソナルブランディングも含めて、ブランディングということで、企業さんのブランディングを作ったり、あるいは個人のブランディングの相談に乗ったりということを今ちょっとやっています。

小林 : ブランディングに関してはすごく興味を持っている人も多いかと思うので、流れの中でその辺りもお話いただけたらうれしいです。

さっそく、今日はこの『THE VISION』にフォーカスしてお話を伺っていきたいと思いますが、本を読んでいる人も読んでいない人もいらっしゃると思うので、なぜ江上さんは、今回『THE VISION』という本を書かれたのか、その意味やこれからどういうことが起こっていくのか、もしくはすでに起こっているのか、企業もそうですが、個人レベルでもどういうことに取り組んでいけばいいのかという、その辺りのことを教えてください。

日本人に対する危機感から生まれた著書

江上 : まず、なぜこの本を書いたのかと言うと、すごく乱暴な言い方ですが、とにかく書きたかったんです。このテーマで、どうしても日本のたくさんの人にビジョンのことを伝えたかったんです。ある意味、僕の中の日本に対する、あるいは日本人に対する、かっこよく言うと、危機感がこの本を書かせました。

日本という国を見ると、実は日本の人口は縄文時代に1回すごく減っていますが、それ以降はずっと何千年も伸び続けています。初の自然人口減を、日本は迎えています。これは多分世界でも、日本がトップバッターでそうなっていますが、僕の田舎は、本のプロフィールにも書いてありますが、長崎県五島列島という、長崎でも田舎で、離島です。よくそこに、年に1回くらいは墓参りに帰りますが、その町の凋落ぶり、本当に衰退していくというのをまざまざと30年見ていて、それが僕からすると、日本の未来を見るみたいで、田舎に帰ると、いつもすごく心が痛いんです。

小林 : 世界的にも初めての人口減少というのが、今日本に到来していて、日本の中でも五島列島という場所は、人口の減少とそれに連動して少し沈んできていると。

江上 : 地方に行くとシャッター通りってあるじゃないですか。あれの極端なやつがあって、ほとんど商店がなくなった町があります。1970年代、今から50年近く前は、人口8000人から1万人ぐらいいた町が、今1000人以下でほとんど老人です。漁業会社も5、6社あって、年間の水揚げ高、ピーク時は320億円稼いでいた町が、漁業会社は全部廃業して、小学校600人、中学校300人、合計900人いた学校が、ほぼ生徒がいなくなって、一昨年に廃校になりました。

東京にいたり、長崎市にいても分からないですが、でも、僕の田舎に行くと、そういう極端な状況がある。これはやばいというのが4、5年前からの問題意識です。それが多分、この本を書かせた一番の理由です。

小林 : 若手の人とか働き手の人たちは、五島列島から出ていっているということですね。

江上 : 公務員以外の仕事がないんです。ゾッとするぐらいない。建設会社はまだ仕事があるんですが、建設会社の経営者とかに話を聞いても、10年後を考えるとゾッとすると言います。

小林 : 日本全体としても、どんどん海外に出る人がいますよね。

江上 : 最近多くなりましたね。

小林 : そういう中で、日本の行く末みたいなのを、五島列島ですでに起こる未来を体験したからこその危機感、ということですね。

未来予想図とビジョンについて

江上 : 本当に強くそれがあって、これを書いて伝えなければならないと。要は、ビジョンというのは、その状況に対してどういう施策があるか、どういう捉え方があって、そこを乗り越えていくどういう方法があるかというのを考えることなので、それは国もそうだけど、企業もそうだし、実は、小さく言えば個人もみんなそうなんです。

小林 : 自分の置かれている未来、それに関係する社会はどうなるのかという未来予想、未来図が描けていないと、そもそもビジョンというのは描けていないということですかね。

江上 : そうです。だから、この本の第4章というのは、未来をつくるためのヒントとして、今テクノロジーがどういうふうに発達しているのか、どういうことが鍵になるのかについて、まとめて書きました。本来はこの4章は、要らないといえば要らない章なんですが、僕はどうしても入れたくて入れたんです。

小林 : すごくコンパクトに言うと、テクノロジーというものによって、どういう未来がやってくるんですかね。あと、僕らにとって、やっぱりまだ未来のことが他人事になってるような気がするんですよね。

江上 : 僕も一言で言うことはできませんが、僕が想像するのは、2020年代から2030年代にかけての爆発的な進化が来る。今の進化の比じゃない進化がやってくる。

小林 : 2020年代はいまだかつてない進化がやってくると。

江上 : 一番来るのは、きっと2030年代後半からですね。いろんな資料を読み込んで、いろんな予測を聞いたり見たりしてると、僕の予測が当たらないかもしれないけど、でも、波の爆発するところは多分そこだろうなと思います。ただ逆に言うと、今の若い人は、2030年代をどう生きるかという、あるいは2020年代の後半からどう生きるかということを考えながら生きていったほうがいい思います。

小林 : 2030年と言っても、あと20年以内。

江上 : そんなに遠い未来じゃないですね。多分そのときは、ものすごくヒューマンなスキルか、それから、統合的なスキルというのが生き残る鍵になってくる。ヒューマンなスキルというのは、すごく乱暴な話をすると、整体師のものすごく腕のいい人は、完璧に生き残れる。統合的なスキルというのは、全体の設計ができる人。そういう人は生き残るほうに入っていくと思います。

だけど、単純作業に近いところ、特に、AIが大体できるところはかなり厳しくなるだろうという想定で、皆さん未来設計したほうがいいかなと思います。

小林 : 日本の飛躍のためにはビジョン、そして日本を構成しているのは僕ら日本人一人一人なわけですが、その飛躍をつくるのがビジョンということなんですよね。

江上 : そうなんです。日本人は、料理の世界でいうと、素晴らしい能力を持ってるんですよ。例えば茶室ってものすごく洗練された空間じゃないですか。ああいう、小さくフォーカスしたときには抜群の能力を発揮するんですが、俯瞰がすごく苦手です。

あるとき、ある評論家さんが、「中国はグランドデザインが得意だけど、マネジメントがめちゃくちゃだ。日本はマネジメントは得意なんだけど、グランドデザインがすごく下手くそだ」とおっしゃっているのを聞いたことがあって、そのとおりだなと思いました。

日本人は、引いて見て、どうしたらいいかという、合意をつくるのがものすごくうまくない。それを意識しながらビジョンをつくったり、総合的なものをつくるということを、みんなが意識しないと、多分なかなかできていかないだろうなと思っています。

小林 : 確かに、この本で、「日本人はリアクション芸人みたいだ」ということで、与えられたお題に対してはうまいと。だけど、「何でもやっていいよ」と言われるとフリーズしてしまう。それは、国家というか政治というか、別に政治の話をするわけじゃないですが、例えば、僕、最近シンガポールと香港に行ってきたんですが、香港はちょっと、シンガポールの後に行って、ネオンとかが田舎のラブホテルみたいな感じで、シンガポールは未来都市という感じで洗練されていて、それは国家としてのグランドデザインという、そういうビジョンを持ったリーダーがいたから、そういう感じなんですかね。

江上 : そうですね。あとはサイズがすごく小さいから、コントロールがしやすいというのはあると思いますが。だから日本でも、都市単位とか県単位だとちゃんとやってるところはポツポツあるんですよ。だけど、日本はどうしても中央統制の強い国の仕組みをつくってしまったので、本当はそこをちょっと緩めていかないと、地域からいろんなアイディアがどんどん活発に出てくるようにならないと思います。実は制度的な問題と日本人の気質的な問題があって、その性質を上手に踏まえながらつくっていかないといけないと思います。

個人のビジョンの作り方

小林 : とはいえ、ある意味自分以外はコントロール外なので、どうやって僕ら一人一人は、自分の人生やビジネスのビジョンを抱いて、ある意味、進化していく競争戦略を自分の中で持てるかというのが、すごく知りたいところなんですが、その辺りの、より個人とか具体的な話に移っていけたらと思います。

江上 : 単純に、ご自分のビジョンをつくろうというときには、別に特別なことをやる必要はなくて、ある意味、会社を辞めて起業しよう、もしくは、会社で早期退職に応募しました、辞めます、といった人がやることとほぼ一緒ですよね。基本的には自分の棚卸しから始めなきゃならないです。

小林 : ビジョンというのは、まず自分の棚卸しから始まるということですね。

江上 : もちろんそうですね。だから、何が今自分の中にあって、自分がどういう意識で生きていて、どこを目指す傾向があるのかというのを知らない限り、ビジョンは取ってつけたようなものしかつくれないし、取ってつけたようなものだったら、多分機能しないはずなんですよね。

だから、本当は自分の棚卸しをきちんとして、その中の一番コアなところを見つけていくというところから、ビジョンづくりをスタートしないといけない。個人でも、多分それは国でも一緒ですよね。

ビジョンを持つとビジネスが変わる

小林 : これを聞いていただいている方とか、僕のコミュニティーの人たちにも多いんですが、すごくニッチというか、変わったことをやっていて、自分の本業でまず結果を出して、その結果の出し方を教えて第2のキャッシュポイントにしましょう、という教育型のビジネスの構築というのをやっているんです。そうすると、まず自分の棚卸しで、人が高値を払ってくれるネタは、自分の中に何があるのかというのを見ていくので、結構そういう作業に似ていますね。

江上 : ある意味、一緒ですね。

小林 : その中で、そもそもビジョンというのは何なのでしょうか。

江上 : 乱暴な言い方をすると、その人の中の、人に教えられるもの、あるいは、その人の中の価値を仕組みとして取り出すということ。ここでいうビジョンは、それに対する大義みたいなものですよ。

小林 : 例えば、「私は英語を教えられる」というときに、なぜ英語を教えるのかという大義ということでしょうか?

江上 : 大義を持ったほうがいいと思います。例えば、自分にものすごく英語の能力があって、英語圏でいろんな階層の人と会ったときに、どういう話し方、どういう話題を英語として使っていけば、ちゃんとコミュニケーションができて同じ平面に立てるのか、ということまで知っていたら、ある意味、日本人をどんどん世界に押し出していく、日本人として誇り高い人たちを世界中に私は輸出するという、ビジョンというか目標みたいなものをつくれますよね。

そういうふうに、本当にこの活動が拡大していって、その先にどういう像が見えるかということをドーンと置いて、それに本当にコミットできるんだったら、それはやっぱりビジョンですよね。乱暴にいうと、自分にとっての大義名分です。

小林 : 今、僕のコミュニティーの中でも、短期間で高額な契約をどんどん契約できる、要は売れる人と売れない人がいるんですよね。売れる人に、「なぜ売れたんですか」とインタビューしているんですが、やっぱり、そこに大義があるんですよね。

だから、売り込んでるとか、自分の金儲けのためだけにやってないというか、売れない人というのは、「これ、売り込んだら友達失っちゃうかな」「これ、駄目なのかな」みたいな。

江上 : そこを見ちゃうと、それは売られるほうも感じちゃうので。だけど、「これは本当にいいから、私はこういう社会の状態、あるいは私の周りだけでもいいから、こんな状態を目指してるんだよね、これ本当にいいんだよ」というふうに言われると、やっぱり価値があるものだって伝わってくる。

そうすると、「やっぱり、買おうかな」って選択肢の中に入ってくる。だから、それはすごく重要かなと思います。いわゆる大義名分をちゃんと自分なりに持つ、ビジョンを持つということですね。

小林 : 確かに、Appleのスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの会議とか、すごいですよね。

江上 : 本当にすごい。だから、会社の経営としてはすごくしっかりやってたと思うんですが、ジョブズは、結構売上なんかどうでもいいと思ってたんじゃないかな。とにかく自分の思い描く新しいデバイスがこの世に生まれるということ、これが本当にいいんだから、この最高のものをみんなに、世界中に分け与えようみたいな、そんな気持ちでいたんじゃないかなと思っています。

小林 : 確かに、あのプレゼンテーションが、製品としての素晴らしさはもちろんですが、あのプレゼンテーションの経済効果といったらすさまじいものですよね。

江上 : すさまじいと思います。

小林 : 今回、この『THE VISON』の帯に、一橋大学院の楠木先生が、「カネで変えないものがいちばんカネになる。それがビジョンだ」という、まさにスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションというのは一番お金になるということですね。

江上 : Amazonを見てると本当にそう思います。

小林 : Amazonは、ちなみにどういうことなんですか。

江上 : Amazonは、「The Everything Store」、なんでも買える店、なんでも売ってる店といってますが、言葉としてはすごく簡単ですが、要するに、世界で一番顧客を大切にする会社。なんでも売ってて、お客さんが欲しいと思った瞬間に手に入るぐらいのことを、彼は夢見ているわけです。確か創業1994年だったので、今年でちょうど25年間、徹底的に、Amazon全体の仕組みがそうなっています。

小林 : まだ25年しかたってないんですね。

江上 : 25年で1兆ドルですよ。時価総額110兆円。たったその言葉二つで、それを偏執的に追い求めてきてつくったのがあの会社で、僕も、半分残念ながらって言っちゃうけど、今、Amazonなしで暮らせないです。

小林 : 僕も、すごく便利ですよ。

江上 : 商品を探す手間を、ものすごく省いてくれる。

小林 : そういう意味では、ここに辛うじて日本企業が1個、良品計画、無印が入っていますが、Googleは、この前値上げがありましたが、Googleのああいうデータベースは使わなきゃいけないし、Appleも、これを今Apple製品でやってるし、Facebookも、今Facebookライブでつないでるし。

江上 : 帯の中であんまり買ってないのは、パタゴニアぐらい。あとは全部すごくお世話になってます。

小林 : 人の生活の中に組み込まれてますよね。

江上 : すごいです。ただ、それがいいのか悪いのか別にして。

ゴールとビジョンの違い

小林 : ここでもう一回個人に戻りたいんですが、僕は「THE ONE」という教育ビジネスの構築と、もう一つ、「THE GOAL」という目標達成のコミュニティーを運営しています。これは、自分の人生で結果を出そうという、そもそも、人生でどんな結果を出すのかということ自体決めていなかったら、ある種漂うクラゲみたいな人生になっちゃうよね、という、僕自身もそういう時期があったので、明確に、例えば今年はこういう本を売るとか、起業するとか、英語を身につけるとか、明確な目標を持って、得たい結果にフォーカスして、虫眼鏡で枯れ葉を燃やしたりするように、あれぐらいフォーカスした熱量でやっていく、みたいなコミュニティーを運営しています。

ただそれは、目標、ゴールなので、ビジョンという言葉と比較すると、割と短期間で達成するようなものですが、さっきのAmazonの「The Everything Store」、なんでも買えるお店というのは、多分創業以来変わってないですよね?

江上 : 何も変えてない。

小林 : 変えてないし、もしかしたら100年後も変わってない?

江上 : 多分変わらないと思います。

小林 :先ほど、長期で生き残り続けるビジョンがいいビジョンだというお話があったんですが。

江上 : 長期のものでいうと、法律の中に憲法がありますが、憲法は、日本の場合一回も変わっていません。それはやはり核心的な価値が中に入っていないと、長持ちしないんですよ、ブレない価値が入ってないと。

小林 : 変える必要がないってことですよね。

江上 : 変える必要がない。今の憲法がどうかはちょっと別にして。要は、ビジョンというのはそういうものであればあるほど長持ちしていく、続いていくということはどうしてもあるわけです。

小林 : 例えば英語の先生を例に取ったとして、長期間生き残り続けて、長期間金を生み続けるためには、どのようなビジョンが必要ですか。

江上 : お金を生み続けるというよりは、「この世界観を実現したい」というところでつくってほしいんです。そのための手段として、ビジネスのいろんなものがあって、その結果指標として、ときどき目標の数字やお金やいろんなものが出てくるというふうに考えないと、逆転しちゃうとちょっと厳しくなるかなと思います。

過去と未来からビジョンを作る

小林 :そもそも未来というのはある程度のイメージ、未来予測というか、そういうのも必要でしょうし、自分に何ができるのかという棚卸しも必要だと思うんですが、ビジョンを描くにあたって、どういうことが必要なのか、どんな作業をしたらいいのかというのも、少し教えていただけますか。

江上 : 基本的には、ステップとしては、まず自分の棚卸しがすごく必要です。それは、過去から現在までの自分を知るということ。そこから先の、要するに未来に対してどういう願望が自分の中にあるのか、それがどういう自分の可能性として未来で開けるものがあるのか、というのを見なくてはなりません。今一点の現在において、過去の自分がためてきたものとか、磨いてきたものをまず見る。そこから、それを持った自分が将来どういうふうに生きたいのかというのをちゃんと見るという、その二つの時間軸のところをきちんと見る必要があります。

小林 : 過去と未来を見る。

江上 : その中を整理していくと、ちゃんと補助線が引けるんです。補助線というのは、つながるものがある。ジョブズ的にいうと、“Connecting The Dots”。つながっていくものが、多分価値として出てくるはずなので、それをビジョンとして、その先にいくつかアイディアとして考えていく。ちょっと抽象的すぎるかな。

小林 : 例えば、僕の話でいくと、時給900円のバイトをやっていた時期があって、今振り返ると自分のビジョンを描く原点になった、原体験なんですよ。

要は、今パラレルキャリアだったり、副業とか複数のキャッシュポイントを持つ時代という中で、僕は約10年前かな、自分で稼いでいかなきゃいけないけど稼げない状況にいて、ある種先取りというか、ちょっとそういうフリーランス社会、フリーエージェント社会を先取りしたところがあったと思うんですね。

それに対して自分はなんとか必死にリアクションしなきゃいけなかったので、要は食っていかなきゃいけなかったので、それが結果的に糧になったんですが、日本人ってグランドデザインを描くのが苦手ということであれば、このまま行ったらこうなるという駄目なシナリオとか、それを江上さんが五島列島で実際に肌で体験したように、負の未来というのを先に体験するというのが現実的には特効薬としてはいいんですかね?

江上 : それもありますよね。ダイエット成功する人が、このまま太っていったらどうなるかということを思いっきり想像させて、嫌だと思わせて、ダイエットをスタートするというやり方もあるみたいだから。だから、それはそれで全然アリだとは思います。

小林 : 机の上でこうやってのっぺりとしたビジョンを描いても、エネルギーにはならないじゃないですか。例えばソニーが戦後の復興を牽引したのも、何工場でしたっけ。

江上 : 理想工場。

小林 : 理想工場というのも、結局、何もない焼け野原というところに対する、ある種の強烈なリアクションが起こったわけですよね。そういう意味では、日本人の特性としては、負の未来を…

江上 : そういうリアクションを利用してもいいと思うんです。

小林 : そういうリアクションを?

江上 : 意図的にやるんだったらアリかなと思います。だけど、何も考えずにリアクションばっかりしていたら、絶対駄目になります。

小林 : 方向性ないですよね。

江上 : ないし、結局、意図がないのでバラバラに積み重なるというか、だから、資産になっていかないんですね。意図があるリアクションができるんだったらそれでもいいですよ。

小林 : でも、ポジティブなケースというのもあるなと思って、例えば、僕の先輩は、自分たちですごく面白いウェディングを自作してやったんですよ。要は既成のウェディングが嫌だから、自分たちで作って、それが原型となってオーダーメイドのウェディングの事業を始めた先輩がいます。

江上 : それは素晴らしい。

小林 : それは割とポジティブ?

江上 : そういうやり方は全然アリだと思います。

血の通ったビジョンを描いていくには

小林 : もちろん、自分の机の上で筆なめなめしてやるのも大事だと思うんですが、血の通ったビジョンを描いていくにはどういうことが必要なんですか。

江上 : 自分がやりたい現場に一回行ってみるということです。例えば僕だったら、企業さんの中に入っていって、どういうところで今困っているのかというのを肌で感じていくという、いろんな企業さんの無料相談とかコンサルをちょっとやってみて、「どこにみんな困っているのかな」というのを感じていくのが大事だし、あと、すごく乱暴に言っちゃえば街を歩くだけでも違ってきます。

もともと、いろんな情報を取るのが好きなので、それこそ、MITのテクノロジー情報から、英語は不得意ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルの月契約やってたりとか、いろんなところで僕は情報の網を張り巡らせているので、そこからやってくる情報に対して、こういう方向で今後の時代は動いたり、ビジョンを描いたほうがいいんだなというのは、ちょっと自分で考えたりはします。

小林 : そういう意味では、日本のネガティブな未来を見るには、例えば、五島列島みたいな過疎化がものすごく進んじゃっているようなところを体験するといういいということですね。

江上 : 地方もへんぴなところに行くとよく分かります。人間の体が末梢神経から駄目になっていくみたいな。要するに、本当の意味で元気だったら、全部血が通ってるはずなのに、少しずつ劣化して血が通わなくなっている地域が出てきているんです。企業もそういうところがあるんじゃないかなと思っています。構造全体を考えながら、どういう違う仕組みが必要なのかというのを考えないといけない時期に来ているんだろうなと思います。

小林 : 逆に、ポジティブな、こういう国家、こういう国になりたいよね、というのを感じさせてくれるところは?

江上 : ポジティブに考えると、ひょっとしたら技術の進化で高齢社会というのが全然ネガティブな要素じゃなくなる、という可能性はあります。例えば、今の60歳とか70歳って、昔から比べるとものすごく若いんですね。人生100年時代って、何の冗談言ってるんだって僕は思っていましたが、でもよく考えると、あるかもしれないと最近思えてきたんです。

そうすると、今、正弥さんがやっているみたいに、単純に勤めているだけじゃなくて、副業を持とうとか、あるいは人生二毛作とか三毛作、3回ぐらい自分の人生の局面を変えていく、あるいは仕事も全然変わっていくというような、そういう生き方が100年時代になると出てくるはずなんです。80までは絶対働くぞ、みたいな人もたくさん出てくるだろうし。大学出た22歳ぐらいから、例えば、60年間あるとしたら、そのうち20年、20年、20年で区切って違う職業をやってもいいね、という考え方もあると思うんです。

小林 : 「貯蓄しなきゃいけない」とよく言いますが、例えば、老後に5000万必要だという話があったとして、でも、引退した後も、例えば年に200万円所得があれば、それを20年やったら4000万なので、4000万の現金を持ってなくても、20年200万円ずつ、もし300万稼げるんだったら20年やったら6000万ですし、そういう意味では、ずっと生涯現役で…

江上 : 行けると思うんですよね。

小林 : 結構、現実的は現実的ですよね。

江上 : 僕も実はもっと長く働こうと思っているので、そういう意味でいくと今の自分のビジネスの設計を変えてきてるんですけど。

今、なぜ個人も企業もビジョンが必要なのか?

小林 : ここでいったん対談の総括として、なぜ今、われわれ個人も企業もビジョンが必要なのかというのを一度まとめていただいて、その後、いろいろ質問を事前にいただいているので、それを江上さんに聞いてみたいと思います。

江上 : 僕、本の中でリアクション芸人と書いてますが、結局、リアクションをしていくということは、自分が全然積み上がっていかないんですよ。ただ反応してるだけだから。だから、そこにちゃんとした意図を持ってリアクションするんだったらいいんですが。リアクションしないんだったら、自分の人生に対して、自分のビジネス、なんでもいいんですが、やっぱり大義、ビジョンが必要なんですよ。

それは別にとてつもないビジョンじゃなくてよくて、「自分の人生をこういう気持ちで生きていったら、あるいはこれを目指して生きていったら、すごく充実するし楽しそうだな」という、そういうものでいいんです。だから、そういうものを持ってやりましょうというのが、すごく柔らかくいえば、この本の主張です。それは、人も個人も企業も、小さな企業も大企業も国家も、あるいは世界もそうです。全部そこに意図を持ったビジョンが必要だよね、と思うんですよ。

忙しい毎日の中でのビジョンの持ち方

小林 : 分かりました。Q&Aのコーナーにいきたいと思います。

まず僕からの質問ですが、とはいえ現実的にリアクションしちゃうなというのがあって、例えば、自分はこういう人生、こういう社会をつくりたいというビジョンがあったとしても、目の前の株価やいろんな風評に、あとは、現実的に自分のお金の収支に対して一喜一憂して、全然ビジョンに一貫した行動が取れないという人たちもいると思いますが、その辺どうしたらいいですかね。

江上 : 一喜一憂するのはしょうがないです。ただ、ビジョンってある意味念仏なんですよ。般若心経とか南無阿弥陀仏と一緒で、念仏なんです。それを唱えていれば浄土に行けるよというぐらいの信じ込みです。自分のビジョンが、もし大義があるとしたら、それを唱えてりゃいいんです。アファメーションみたいなものですよ。リアクションもしなきゃならないときもあるし、一喜一憂も当然あるし、でも、これだけは忘れないでおこうという気持ちがある、という状態をつくっていればいいんですよ。

そういう未来を照らす大義というか、灯台、光みたいなものです。そこを目指して行けばいいんだなというのを頭の片隅に置いて生きていけばいいかなと僕は思っています。だから、そんなにビジョン、ビジョン、じゃなくて、ポッと灯った灯台みたいな形で、「あれがあるな」と思いながら、一喜一憂してリアクションすればいいってことなんです。

小林 :経営者はなぜゴルフするのかというので、ボールを飛ばしたい先を見つつ、足元のボールを見て、ピントを遠くと手前と合わせるという、これが経営に似てるみたいなので、経営者はゴルフをするんだみたいな話が、聞いたことあるんですけど、ちょっとそれに…

江上 : 近いかもしれない。

小林 :ですね。では次の質問です。これは女性の起業家の方ですが、子育てもやりながらビジネスもやっている方です。

ちょっと読み上げますね。「目標が三つあってどれも全力投球ではあるのですが、的を絞る、時間をつくるようになるべく努めています。ただ、コントロールが非常に難しいです。同時並行で大事な目標があるときのコツのご意見を伺いたいです」。ちなみに目標は三つあって、一つ目は子育て、家庭に手を抜かない、二つ目は本業で結果を出し続ける、三つ目が新しいビジネスを立ち上げる。

三つの目標に全部全力投球ではあるけれども、なかなかコントロールができずに、多分慌ただしい毎日を過ごしているということなんじゃないかなと。

江上 : これは、このままずっとやったらパンクしちゃいますよ、きっと。

小林 : 江上さんもちょうど子育てというか、お嬢さんが…

江上 : 子育ては奥さんが頑張ってくれたので、負担ではなかったんですが、僕も実は、同じような状態にここ10年何回もなりました。結果、今だいぶ自分のペースで動けているんですが、何をやったかと言うと、切ったんです。できるだけ不要なものを切っていく。要するに、その切るときには、自分の未来を見て、ある意味ビジョンを考えながら切っていった。だからそれは痛みも伴ないますが。

多分、この方は子育て、家庭を手を抜くって多分できないと思うんですが、そうすると、仕事も含めて一番プライオリティーを何に置くのかというのをまず決めなきゃいけない。そうした上で、本業で絶対に飛躍するためにやるべきことというのが、多分一つあるはずなんです。それをとことん追求して、あとはできるだけ削っていくというのをやらない限り、子育てもここをポイントにしよう、家庭はここをポイントにしよう、というところをつくって、他をできるだけ減らしていかない限り、多分パンクギリギリか、アップアップするか、ときどきパンクするか、という状況の中で何年も何年も生きていくんじゃないかと、なんとなくこの文面見てて思います。だから、絞るしかないです。

小林 : 個人のビジョンみたいなのも、捨てるときに役に立つんですかね。

江上 : 立つと思います。本業で何を目指すのかということに、大義・ビジョンをちゃんとつくれば、それ以外のものは捨てていってもいいなと思えるかもしれないです。

小林 : 僕は子育ての経験がないですが、子どもの経験はあるので、今自分も30代になって、両親に育ててもらったんですが、何がよかったかといったときに、長い時間を過ごしてもらうということは大事だとは思うんですが、親の背中や生きざまというのを、すごくよくも悪くも見てて、やっぱり真似しちゃうなというところがあります。

この方は女性の美に関するビジネスをやっていますが、そういう意味では、女性として美しく生きるとか、かっこよく生きるとかは、この人のビジョンというかテーマなのはよく知ってるので思うんですが、そういう意味では、子育て、家庭においても、手放していいところももしかしたらあるんじゃないかなと思います。例えば、父も会社を経営しているんですが、僕が成人するまで父親とまともに時間を過ごしたという思い出は、そんなにないんですけど。

江上 : でも、僕も一緒だよ、me too。

小林 : ただ、今振り返ってみると、やっぱりそういう父親の姿は、僕の子育てにおいてはすごく、今はポジティブだなというのはあるんですね。逆に、家にずっといて自分探しでもされてたら、相当に迷惑だったと思うので。そういう意味では、江上さんの話は、ビジョンを基準にして、違うことは手放すということですかね。

江上 : あと、僕の場合、やっぱり仕事も大事だけど家庭が一番大事なので、そこを駄目にするようなことは絶対やらないというのは、当たり前にそれはやっているので。その上で本業をどう深めていくか、という形でずっとやってきました。

小林 : 僕は毎月半分は海外旅行に、シンガポールに行くというのをやっているんですが、この決断はなかなか、自分の人生のビジョンがはっきりしない限りはできなかったなと思います。

子供でも分かるシンプルさ

小林 : 次の質問です。男性の経営者の方です。「ビジョンは最高の公共的未来像ということですが、抽象度、期間はどのレベルにするのがいいんでしょうか」という質問です。

江上 : 抽象度というか、そんな抽象である必要はないです。例えば、さっきの「The Everything Store」って、めちゃくちゃ分かりやすいじゃないですか。なんでも売ってる店。だから、これは逆に分かりやすければ分かりやすいほど最高ですよ。

小林 : イメージできるかというのは大事なんですかね。

江上 : イメージできて、子どもでも分かるというのが最高です。だから、抽象度をそんなに上げる必要はないと思っています。要するに、そこを目指してつくる必要はないですね。

GoogleとかAmazonのビジョンがすごいと思うのは、めちゃくちゃ具体的だからです。Googleが、「世界中の情報を整理して全ての人が使えるようにする」みたいなことをいうと、小学生でも分かっちゃうので、そこに抽象度はないと思いますね。それだけ分かりやすいと、期間も長くなるはずなんですね。その分価値がいいものだったら。

小林 : 子どもでも分かるぐらい、一言でシンプルさがあって、長く続くもの。

江上 : それはやっぱりすごく難しいことではあるけれども、ただ、期間をどのレベルにするか、抽象度をどのレベルにするかと考える必要はないということです。みんなが共有しやすい、みんなが分かりやすい、いいなと思うものをつくろう、というぐらいでいいです。

自分の夢と社会の夢が重なるところ

小林 : 公共的未来像という言葉は?

江上 : 本の中にあるんですが、ビジョンは、自分自身の夢と皆さんの夢、社会の夢が重なるところにできるものだと、僕は規定しているんですね。

だから、例えば「The Everything Store」とか、さっきのGoogleの「情報を整理して誰でも使えるように」というのは、Googleの夢でもあるしAmazonの夢でもあるが、僕もそういう未来が来たらいいな、と思うものでもあるんですよ。だから、その共感を受け止める、受け止めるというか共感を引くような概念、言葉であるがゆえに、すごく力を持つんだと思うんです。

小林 : 自分だけの個人的目標とか夢では、半分ということですよね。

江上 : そう。もし、これ中国の方が聞いていたら気を悪くしないでほしいんですが、中国の習近平さんが「一帯一路」というときに、それは素晴らしいことでもあるけれど、ちょっとやっぱり、どうしても、我の匂いがするんですね。中国が利を得るために、というような匂いがしちゃうから、乗っかりにくいというところは少しある。

それが極端になると、例えばある企業が、「シェア30パーセントがわが社のビジョンです」と言ったとしたら、「なんだそりゃ、お前が勝手にやればいいじゃん」となるじゃないですか。そこには何の共感の土壌もないので。あんたの目標だけであって、私の夢でも何でもないね、という感じです。

小林 : そういう意味では、国家よりも企業の方が横断的ですね。今、例えば、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」という、アメリカを第一に考えるという、国家というフレームワークになったときに、世界中のあらゆる国々が豊かに幸せになるというビジョンではなく、やっぱり、アメリカが豊かになるという、アメリカ人はそれに賛同すると思うんですが。

江上 : すごく内向きになっていますよね。

小林 : 国家が描けるビジョンというのは、ある種、国家の中でしかないという、すごく限定的になっちゃうんですかね。

江上 : でもそれは、基本的には駄目になっていくと思うんです。

小林 : そういう意味では、企業のほうがすごく横断的に、世界の幸せを飛躍させていくような可能性って、いろいろあるんですかね。

江上 : 組織としては、国よりは当然企業のほうが小さいので、もっと機能的に、もっと絞り込んだ夢、ビジョン、大義を描けるはずなんですよね。

小林 : でも、個人とか企業というか、一個人という意味では、江上さんの本に書かれている、マーチン・ルーサー・キングの、20世紀で最も優れたビジョンと出ていましたけど、あのビジョンは本当に世界を変えてますよね。

江上 : すごいなと思います。

顧客中心というビジョンとターゲティング

小林 : 次の質問です。「Amazonのように顧客中心の経営を行っていきたいんですが、顧客をどこまで絞り込むのがいいでしょうか」という、これは、ターゲティングというかマーケティングの質問ですかね。

江上 : どういう企業さんかが、ちょっと分からないですが。

小林 : 基本的には教育系のビジネス。結構悩む人がいるんですよ。そもそも、例えば、営業の教育プログラムをやるときに、BtoBの法人の営業も指導できるし、個人のフリーランスの人がどうやって自分という商品を売り込むかという、BtoC向けの営業トレーニングもあって、「両方できるんですが」と僕もよく聞かれることがあるんです。

江上 : でも、絞ったほうがいいですよね。企業だったら企業に、いっそBtoBに行くべきだし、絞らない限り、多分力は分散しますよね。それは正弥さんのほうが詳しいと思うんですが。

小林 : そうですね。マーケティングプロセスが分散するので、そのときの意思決定としては、僕も一緒に議論しながら決めていくんですが、僕の基準は、儲かる、儲からないということは半分で、あとは強みを生かせるかとか、江上さんの言葉でいうと、どっちが本当にやりたいことなの?というところで見ていくんですが。

江上 : そのとおりですね。やりたいかどうかと、実際にその人の強みがどう生かせるかというので、顧客はやっぱり絞ったほうがいいですよね。

小林 : Amazonみたいにコモディティ化されて…

江上 : Amazonはお店という仕組みなので、そこで顧客どうこうというのはあんまり関係ないという形になりますよね。Googleの検索が、ほとんど顧客戦略って、多分あるとは思うんですが、ほとんどないのと一緒のようなもので。

小林 : プロダクトライフサイクルの最初に飛びつく、iPhoneの3Gを買うような人って、やっぱり、性能だけじゃなくてその人のビジョンに共感したりして、チャレンジャーな人達が買ったりするわけじゃないですか。

江上 : 最初の導入する人達はね。

小林 : だから、絞るということも大事だけど、やっぱりビジョンをしっかりと明確に伝達していく。

江上 : それもすごく大事だと思います。これはちょっとマーケティングの戦略的な問題なので、結局、今言ったように、顧客を絞らなければ力は分散する、絞ればフォーカスされるというだけの話なので。

ビジョンが伝わる話し方、書き方

小林 : ちょっとそれに関連して、最後の質問なんですが、「ビジョンを伝えるときの、ビジョンが伝わる話し方、書き方についてアドバイスください」

ブログやってますとか、メルマガやってますという人がいるんですが、何か足らないというか、一言でいうと熱量がないというか、量やってるから伝わるわけでもないじゃないですか。これってなんですかね。伝わる話し方というものがあるんですか。

江上 : 情熱があるかどうかだけどね。例えば、オタクの人がいます。あるAさんというタレントが大好きでしょうがない。この人がAさんのことを話すときは、伝え方も話し方も関係なく、「好きなんだよ」ってあふれながら話してるはずなんです。

だから、実はビジョンの本当にいいものができて、これは本当に俺のビジョンだって思うんだったら、別に話し方とか伝え方なんて関係なくて、情熱を持って話すということがまず第一にあるんじゃないですか。そうじゃないと、一次感染、二次感染、三次感染、四次感染というふうに、自分のいないところでもどんどん広がっていくパワーを持たないということです。感染力があるということは、自分の情熱がどれだけあるかということなので。

話し方も当然あるし、書き方もあるかもしれないですが、まずそこを考えるよりは、自分の情熱と本当にリンクしたビジョンができているか、ということに注意を払ったほうがいいですよね。

小林 : こういう話法というかテクニックに意識が行っている時点で、ちょっとピントがずれているというか…

江上 : ずれてると思う。

小林 : 自分の中のどうしても伝えたいという熱量を、情熱レベルを上げていく。逆に、暑苦しすぎて、というぐらいに…

江上 : なってもいいと思う。さっきの、商品を売れる人と売れない人がいるというのと一緒で、高額でも、「これ本当にいいの」ってにじみ出てくる人は、買っちゃうんですよ。ビジョンもそれと一緒です。「すごいな、こういう思いを抱いてこういう未来像を描いてるんだ、面白いな」と思ってくれるはずなんですよ。そういう熱量があったら。

小林 : 僕は割とマーケティング系の専門なので、KPIとかフレームワークとか、短期的にできた、できないということを1個ずつ詰めて形にしていくんですが、よくよく考えるとすごく日本人的だなって思いました。でもビジョンは、熱量にしても、ある意味、KPIというか、定量的に判断しかねるところがあるじゃないですか。

江上 : 判断しかねますね。

小林 : 判断しかねるから大事じゃないんじゃなくて、判断しかねるものって結構後回しにしてしまったりとか、目先のことだけになっちゃうなというところがあったんですが、ある意味、KPIとか細かいところをあんまり置かずに、ビジョンというものに深く向き合うということがすごく大事だし、楠木先生も帯に書かれているように、ビジョンの熱量、情熱というのが、マーケティングとかセールスとか、あとは採用とかコミュニティーづくりとか、あらゆることの根源的なパワーになっているなというのは、すごく感じました。

江上 : 本当そうです。だから、正弥さんで見ていると、これからどんどんビジョンが重要になるはずなんです。

小林 : 僕自身が?

江上 : 絶対それが重要になってくるし、いわゆる小林正弥の大義というものが、どんどん必要になってくるはずなんです。何年もこれから続いていくと。本当にいいものがあったときに、広がりが出てくると思うので。別にそれは起業するときにつくる必要はないです。絶対つくれというものではないですから。つくれたら最高ですが。

やりながら、「こっちに向かうべきなんだな」というのが見えてくるときがあるので、それはやっぱり何年もたったら、あったほうが絶対にいいと僕は思います。

小林 : ありがとうございます。そのときの僕のすごく重要なヒントとしては、ビジョンというのは個人の夢だけじゃなくて、公共の夢との重なりという、いかに公共、社会とかに実際に目を向けて肌で感じるかというのがすごく大事なんだなと思いました。

江上 : 本当にそれが大事なんだなと思います。

21世紀のアジアに本当の平和を

小林 : 僕自身ビジョンに関しては、自分の生き方そのものでもあるので、江上さんから引き続き学ばせていただきたいなと思います。最後に、江上さん自身だったり今日のまとめだったり、今後のビジョンについて、一言いただいてこの著者対談を終えたいと思います。

江上 : 僕は、会社経営者というか起業家でもありますが、ちょっと政治家みたいなことを言っちゃいますが、僕は、21世紀のアジアに本当の平和というものがすごく欲しいです。アジアって、ものすごく多様な世界なんですよ。トルコのあの辺の中東から極東の日本に至るまで、人種的にもめちゃめちゃ多様だし、実はヨーロッパとかアメリカとかよりも、めちゃくちゃ多様なんです。文化もものすごくいろんな形があるし、そういう意味では、一つにまとまるのがなかなか難しい地域なんですが、どう考えても、アジアから21世紀の新しい価値が生まれてこないと、人類が進化できないと思っています。

小林 : 多様なものを受け入れつつ、けんかしないというか。

江上 : 民主主義と資本主義は、ヨーロッパとアメリカが普遍的な価値としてつくりましたが、それに次ぐものが、本当はアジアから出てくるといいなと僕は思っています。それが何かって言えないですが。だから、そういう土壌をつくるための活動を、僕はずっとやっていこうと思っています。だから、ブランディングというものも、このビジョンの本も、その中の一つのパーツなんです。

小林 : そういう教育者としての活動を…

江上 : 続けていきますね。自分のポジションはそういうものだと思っているので。

小林 : 重要ですね。この前シンガポールに行ったときに、シンガポールに移住した日本人のご家族と話をして、「なぜシンガポールなんですか」と聞いたときに、本当は日本がいいらしいんですが、節税とかそんな理由でシンガポールに行ってるわけじゃなくて、唯一日本にないのが教育らしいんですね、お子様の教育。多様な、多国籍な中で、自分の幸せや相手の幸せを、まず小さい子どもにも考えさせるらしいです。今のお話にすごく通じるなと思いました。ぜひ、江上さんにはそういう、会社を飛躍させるところもそうだし、人間として、より平和になっていくというところの活動も、ぜひ。

江上 : やっていきます。

小林 : 僕の家族の幸せも、引き続きよろしくお願いします。

江上 : よろしくお願いします。

小林 : 今日は『THE VISION』を書かれた江上隆夫さんにお越しいただきました。本当にありがとうございました。

江上 : ありがとうございました。

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